AI技術の発達により、様々な分野でAIを用いたソフトウェアが使用されるようになってきました。英文校正もその一つで、2000年代の後半から多くのアプリがリリースされ、主に英語圏の国々で広く使われています。
AI校正は登場時点から大きな進歩を遂げており、将来的に人間のエディターを代替するのではないか、とも言われています。
本ページでは、AI校正サービスを幾つか取り上げ、各AIに出来ること、その性能を比較していきます。
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初めてAI校正を使う人の中には、AIが全てのミスを見つけ出し、チェック完了後には、間違いのない完璧な文章になっている、と思う人もいるかもしれません。残念ながら、現在のAIレベルは人間のエディターには到底及ばないもので、AIの修正が新たなエラーとなっていることも多々あります。
では、全く使えないのかというと、そうでもなく、最終チェックや、過去の自分の論文との類似度を下げるためのリライト、投稿規定への準拠度合いの確認など、執筆者をサポートできることはたくさんあります。
初めてAI校正アプリを使う際に、予め知っておいたほうが良い点を、以下簡潔に列挙してみます。
1.AI校正は人間のエディターを代替するレベルには至っていない
人間の英文校正と同じアウトプットを求めるのは、今のAIレベルでは100%無理です。「最終チェックとして使用できる」「執筆をサポートしてくれる機能がある」くらいの感覚で使いましょう。ネイティブに近い英語力がない限り、「英文校正費をうかせるために無料のAIで代替する」などとは考えない方がいいでしょう。
2.AIは新しいエラーを発生させたり、意味内容を変えてしまう場合がある
AI校正アプリは、第二言語話者だけでなく、英語ネイティブが日常的に使用するほど普及していますが、完璧ではありません。AIにより、新たな文法エラーが生成されたり、元々の文意が変えられてしまう可能性もあります。
3.AIの修正サジェストは、人間が再確認する必要がある
AIのサジェストは完璧ではないため、人間が一つずつチェックして、AIの修正を適用するかどうか確認する必要があります。
4.AIツールを使うには、ある程度高いレベルの英語力が必要
AIのサジェストの確認には、それが正しいか間違っているかを判断するために、ある程度高度な英語レベルが求められます。それでも定冠詞の有る無し等は、AIでもよくエラーが出る上に、非ネイティブには判断が難しい場合が多いので、人間のエディターにチェックしてもらった方が良いかもしれません。
5.AI校正の結果は、入力するテキストの分野、文章内容などにも依存する
ある分野の論文では非常に正確な校正結果が出ても、別の分野ではそれほどではないといった場合もあります。
6.初めは無料版を試してみる
それぞれのAIは、出来ることや得意なことが異なります。色々試用してみて、自分にあったものを使いましょう。どのAIアプリも無料版でかなりのことが出来るので、初めから有料版を買う必要はありません。
7.複数のAIアプリを組み合わせて使う
あるAIは文法ミスの検出力が高く、あるAIはバラエティ豊かなリライトをし、またまた別のアプリは、フォーマットスタイルのサジェストをしてくれます。AIのミスを補ったり相乗効果を得るために、複数のAIアプリを使うのも有用です。
Grammarlyは他のAIと比べて文法ミスの検出力が高いです。複数のAIを組み合わせて使う場合にも、エラーを取り逃さないため、Grammarlyを入れておくのが良いと思います。
QuillBotとLinguixにはパラフレーズを行ってくれる機能があり、選択した文の言い換え候補を提示してくれます。類似性が高く悩んでいる場合には非常に有用な機能です。ただし、無料版では、一度に入力出来る単語数の制限や、パラフレーズ出来る回数に限りがあります。
AIが全く新しい内容を自動生成してくれる機能があります。入力したテキストと過去の機械学習内容からコンテンツを生成しているので、論文では言及されていないことも追加される場合があります。論文よりは、海外留学のためのエッセイやアプリケーションレターで書く内容に困った際などに使うと、新たな道が開けるかもしれません。
TrinkaはAPAやMLAなどのフォーマットに関するサジェストをしてくれたり、投稿規定への準拠度合いをチェックすることが出来ます。投稿規定チェックは無料版では月に2回まで使用可です。
AI校正:無料版
利用可能単語数 | スペル・文法・句読点のチェック | 語の選択 | より簡潔になるような修正 | 言語スタイル (US, UKなど) |
統一性チェック | 文章パラフレーズ機能 | 文章要約機能 | コンテンツ自動生成 | スタイルガイド、投稿規定への準拠チェック | 文法エラー検出/修正力(★5) | アカデミックな文書への対応力(★5) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
制限なし | ○ | ☓ (有料版では○) |
○ | ○ | ☓ (有料版では○) |
☓ | ☓ | ☓ | ☓ | 4.5 | 4 (有料版では「アカデミック文書」の設定ができる) |
制限なし | ○ | ○ | ☓ | ○ | ☓ | ○ ・無料版は一度に125単語まで(フォーマル、より長く、短縮などのモードは有料版のみ) |
○ ・無料版は一度に1200語まで入力可 |
○ | ☓ | 4.2 | 4 |
制限なし | ○ | ☓ | ☓ | ○ | ☓ | ○ ・一日にパラフレーズできる回数に制限あり |
☓ | ☓ | ☓ | 4 | 4 |
5000語/月 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ☓ | ☓ | ☓ | ○ | 4 | 4.7 |
AI校正:有料版
高度な文法チェック | 文章パラフレーズ機能 | 文章要約機能 | 剽窃チェック | 有料版価格 |
---|---|---|---|---|
○ (フォーマルさのレベル設定、語の選択、不明瞭な文の修正、冗長性の除去、複雑な文の句読点修正、等々が追加) |
☓ | ☓ | ○ | 1ヶ月:30 USD 3ヶ月:60 USD 12ヶ月:144 USD |
○ | ○ ・フォーマル、より長く、短縮などのモードが選択可 |
○ ・一度に6000語まで入力可 |
○ ・月間5000語まで使用可 |
1ヶ月:19.95 USD 6ヶ月:79.95 USD 12ヶ月:99.95 USD |
○ | ○ ・回数無制限のパラフレーズが可 |
☓ | ☓ | 1ヶ月:30 USD 3ヶ月:60 USD 12ヶ月:120 USD |
○ | ☓ | ☓ | △ 別途クレジットの購入が必要 |
1ヶ月:20 USD 12ヶ月:80 USD |
このセクションでは、各AIサービスの特徴、優劣のポイント等を記述しています。
各AI校正を評価する際、入力するテキストとして、筆者及び知己の研究者が過去に執筆・英文校正にかけた論文で、ジャーナルにアクセプトされたものを使用しました。全て欧米ネイティブ、博士号保有のエディターによる校正で、スタンダードレベルでの校正となっています。
文法ミスの検出力が他のAIより優れている
厳格な個人情報の取り扱い
MSワード、デスクトップアプリ、各種ブラウザ拡張機能など、様々なプラットフォームで使用することができる
他のAI校正に比べて有料版の価格が高い
GrammarlyはAI校正の中で最もメジャーなアプリである。無料版では基本的な文法チェックしか行なわれないが、文法ミスの検出・修正力は他のAIを一歩リードしている。同じ文書をGrammarlyと別AIに入力した場合、Grammarlyでのみエラーがキャッチできたケースも多く、人間エディターの校正と比較した場合でも、修正が重なるケースが非常に多かった。また、学術論文に特化したアプリではないが、複数の学術分野でも検出力が大きく変わることが無く、安定して文法ミスの修正を行うことができていた。
また、Grammarlyは、ユーザーデータの取り扱いに非常に厳格な方針をとっており、入力したテキストや個人データ等は、第三者のデータブローカーへと販売・提供することを禁じている。(Grammarlyは有料購読サービスのみで収益を上げている。)個人情報保護に関する各種規制(GDPR、CCPA、HIPAAなど)にも対応しており、個人情報に対して敏感なユーザーに最大限の配慮を行っている。
ただ、残念なことに、その購読価格は他のAI校正と比べても高く設定されており、年間購読で約1.5倍の価格となっている。基本的な文法に関しては無料版でも十分な修正力を持っているので、まずは無料版を試用してみることをお勧めする。その上で、無料版にはない+アルファの機能(用語の統一性チェック、アカデミック文書への対応設定、不明瞭な文の簡易リライトなど)が欲しい場合に、有料版を考慮したほうが良いだろう。
文法チェッカーの検出・修正力が高い
単なる文法チェックにとどまらず、語の選択、文の一部書き換えなど、より深い修正を行ってくれる
パラフレーズ機能が非常に強力
有料版でも剽窃チェックは月間5000語まで
QuillBot の文法チェッカーは非常に優秀で、名詞の単数・複数、句読点、動詞の語形変化、不定冠詞から定冠詞への変更など、人間エディターの修正と重複する部分が多い。基本的な文法の検出・修正力は、Grammarlyに匹敵するレベルにあると言える。
また、意味の似た語への変更や、文の一部書き換え、文中にある接続詞の文頭への移動、動詞がない文に動詞を補って文として成立させるなど、無料版でも単なる文法チェックを超えた、より深い修正が行なわれている。ただし、こうした大きな変更は、精度が高くない場合があり、新たなエラーを引き起こしたり、意味内容が変わってしまったりと、逆効果となってしまうケースも見られた。
QuillBotのパラフレーズ機能は非常に強力で、ある文を言い換えたものを、AIに自動生成させることが出来る。極論すれば、あるソースからコピーした文章を、意味内容を保ちつつ、別の文章に変換することさえ可能となる。自分の過去論文との類似度が高くなっている場合には、その対策に掛かる時間と費用を大きく節約することができるだろう。無料版では、125単語までの入力制限、フォーマルなどのモードが選択不可、変更しない部分を選択できない、などの制限があり、それ故に生成された英文が他の部分から浮いていると感じる場合がある。もしこの機能をメインに使うのであれば、有料版の購読を検討したい。
ウェブエディターのUIはシンプルかつクリーンなデザインで使いやすい
基本的な文法、句読点、スペルミスの検出・修正能力は実用的なレベル
厳格な個人情報取扱い方針
一ヶ月単位の購読は他のAI校正より割安
ファイルをアップロードしてAIにチェックさせることができない
有料版でも剽窃チェッカーがない
無料版の場合、LinguixのAIが検出するのは、スペルミス、句読点、基本的な文法となるが、人間エディターのチェック部分と重なる修正点も多く、かなり実用的なレベルにまで達している。ただ、特定の状況においては、明らかに奇妙な修正案が提示されるケースが確認されている。例えば、「Mike’s house」のように、所有を示す「’s」がある場合、後ろに続くスペースを削除して「Mike’shouse」と修正してしまう。この種のエラーは奇妙な故に分かりやすいのが幸いだが、早期のアルゴリズム改善を望みたい。
その他、LinguixではAIに文章のパラフレーズをさせ、一度に10種類程の候補を提示させることができる。ただし、パラフレーズの際のパラメーターを設定できないこと、AIが過去の学習内容も参考にすることから、意味内容が全く異なる文章が生成されてしまう場合もある。よりユーザーの好みを反映したパラフレーズを望むのであれば、QuillBotも試してみたほうが良いかもしれない。
また、Linguixは、個人情報の保護を重要なイシューとして認識しており、GDPRやCCPA等の個人情報規制に対応した上で、サービス提供を行っている。ブラウザ拡張では、テキストをチェックしないサイトを選択でき、シークレットモードでウェブエディターを使用した場合には、ブラウザを閉じた際に入力テキストが全て削除される。また、有料版購読のみで利益を上げるビジネスモデルとなっており、個人情報、入力したテキストデータ等を第三者に販売・貸与することは一切行っていない。
学術論文に特化して開発されたAI校正
APA、MLAなどの各種フォーマットに関する提案・コメントが行なわれる
投稿規定に準拠しているかのチェックが可能
有料版の年間購読価格は、他のAIと比較して安価に設定されている
無料版は5000語/月の使用制限がある
剽窃チェックには別途クレジットの購入が必要となる
Trinkaは学術論文やアカデミックライティングに特化して開発されたAIアプリである。様々な分野の論文を機械学習しており、学術論文に対して他のAIより適切に対応することができている。例えば、論文中の「30 minutes」「37°C」に対して、論文では一般的に短縮形の「min」が用いられること、AMAスタイルではdegree symbolと数字の間にスペースが必要ということを、コメントを付けた上で修正している。また、他のAIの様に、専門用語の多くにスペルミスのフラグを立てたり、他から浮いてしまうインフォーマルなサジェストが現れることも無かった。
文法の検出力はGrammarlyを除く他のAIと同程度だが、他のAIに比べて後発となり、プログラムの熟成度が不足しているためか、意味内容が大きく変わってしまうサジェストや、明らかな非文となる修正がみられた。また、学術論文のMaterials and Methodsセクションにも関わらず、Passive voiceからActive voiceへの変更を勧めるコメントが頻繁に行なわれる等の現象も確認されており、アルゴリズムの早期改善が望まれる。
こうした発展途上の箇所も多少見られるが、用語などの統一性を確認する機能や、選択したフォーマットに関する助言、投稿規定への準拠を確認してくれる機能は他のAI校正には無く、非常に有用なものとなっている。欲を言えば、現在は細かいフォーマットの助言だけが行なわれている点を改善し、見出しのスタイルや文中引用など重要なものを一気に修正してもらいたいが、これらは将来の発展に期待したい。